もうひとつの視点からーある日本共産党論を読んでー(上)

 先月の末に、知り合いの大塚茂樹さんから近著を贈呈していただいた。そのタイトルは、『「日本左翼史」に挑む』(あけび書房、2023年)となっており、サブタイトルは「私の日本共産党論」であった。私は先月3月にこのブログで、「騒がしきことなどー松竹問題雑感ー」と題して、3回に渡って思うところを誰にも遠慮することなく、自由に吐露してみた。遠慮がなさ過ぎているのではないかと思われた方もおられたかもしれない。そこでも一言触れておいたが、こうしたテーマの本は、左翼を意図的に貶めるために書かれた本でなければ、だいたいはネットで買うし、休み休みではあるが一応斜めには読む。すでに本も買わないし読まなくなった年寄りではあるが、まあ唯一の例外分野といっても言いかもしれない。大塚さんの本ももらってすぐに読み始めた。タイトルからして読書意欲が妙にくすぐられたからである。

 著者の大塚さんとは、数年前にとあるところで顔を合わせ、その時以来知り合いとなった。彼は本名ではノンフィクション作家として執筆活動にいそしみ、ペンネームの中野慶で小説や児童文学に手を染めておられる。知り合いとなって以来、いつも著作を贈呈してもらっている。研究書はもう読む気はないが、小説であれば愉しみながら読む。読めばブログに感想の一つも書きたくなる。そんなわけで、『軍馬と楕円球』(かもがわ出版、2019年)や『小説 岩波書店取材日記』(同、2021年)の読後感めいたものを、ブログにも書いたことがある。この2作とも小説の形式を取ってはいたが、読み通すにはそれなりの社会科学の素養が必要であった。このあたりがいかにも大塚さんらしい。

 『軍馬と楕円球』は実験的小説、『小説 岩波書店取材日記』はユーモア小説と銘打たれていたが、私はついつい生真面目に読み過ぎてしまったもので、実験もユーモアも十分には分からずじまいであった。だからそんなことにまで触れてしまったのだが、言わずもがなの余計な一言であったろう(笑)。年寄りには分からなくて当然である。彼の本領は、どうも中野慶よりもノンフィクション作家大塚茂樹の方にあるような気がするので、今回の著作はたいへん興味深く読ませてもらった。時期が時期だけになおさらである。周りの人間にも勧めたくなるような本に仕上がっていたし、小説では今ひとつ感じ取れなかった実験やユーモアもところどころにあったから、淡い付き合いではあれ友人としては嬉しかった。『小説 岩波書店取材日記』が刊行されてからたかだか1年で、今回の著作の出版である。その問題関心の幅の広さや丁寧な文献研究、さらにはその旺盛な筆力にあらためて感心した。

 彼ははしがきで、「左翼の歴史と向き合うことは、筆者にとっても40数年のテーマである」と語っているが、そこまで言い切ることのできる人はそうはいない。そこで今回の『「日本左翼史」に挑む』である。日本共産党が昨年創立100年を迎えたこともあって、この間共産党を論じたさまざまな本が出版された。著作の出版が規約違反に問われて除名処分を受けた松竹伸幸さんの『シン・日本共産党宣言』や鈴木元さんの『志位和夫委員長への手紙』はよく知られていると思うが、この他にも中北浩爾さんの『日本共産党』や有田芳生さんらの『希望の共産党』や『日本共産党100年 理論と体験からの分析』などがあり、そして池上彰さんと佐藤優さんという超が付くほどの著名人二人の対談からなる『真説 日本左翼史』、『激動 日本左翼史』、『漂流 日本左翼史』(いずれも講談社現代新書、2021~22年)の三部作なども登場した。

 大塚さんが挑んでいるのは、最後に紹介した三部作からなる『日本左翼史』である。物好きな私もこの三部作を購入して斜め読みしてみた。著者の佐藤優さんは、世界情勢から宗教からマルクスから人生論にまで及ぶ文字通り山なす著作の持ち主であり、何となく「知の巨人」の如くである。もう一人の池上彰さんは、ニュース解説者としてテレビで引っ張りだこであり、9つの大学で教鞭を執るような「メディアの寵児」である。この売れっ子の二人が、社会党、共産党、新左翼を三本の軸にしながら、戦後日本の左翼の歴史を通観しているのである。戦後に起こったさまざまな事件がその裏話を含めて縦横無尽に語り尽くされ、さほどのためらいもなく一刀のもとに両断されていた。

 事情通のお二人なので情報や人脈をめぐる話題が満載であり、読み物としてはたいへん明快で面白くそれゆえ痛快なのであるが、そうした明快さや面白さや痛快さにまとわりつく危うさにはまったく無自覚なようにも思われた。そもそも、活用した文献のリストもない対談は、放談に堕して行く危険性すらあろう。対談をリードしているのは左翼(とりわけ新左翼)の情報にやたらに通じた佐藤優さんだが、もしかしたら「物知り」やら「訳知り」が過ぎるのではあるまいか。事情通を自認すればするほど自慢話に近付いていくので、「ドーダ病」の重篤な患者のようにも見えてくる。

 

PHOTO ALBUM「裸木」(2023/04/21

近隣の散策から(1)

 

近隣の散策から(2)

 

近隣の散策から(3)