地元の文化祭に写真を出品して

 このところ写真に興味が湧いている。そんなわけで、写真にまつわる話をこのブログにも何度か書いたことがある。もともと写真を撮ることが好きではあったが、それが昂じてきたのである。きっかけとなったのは、知り合いのMさんから大型のプリンターを譲り受けたことにある。A3ノビ(A3のサイズよりもさらに大きい)までの印刷が可能なので、どんな大きさの写真も自由自在にプリントできる。単純な私などは、何だかそれだけでいっぱしの写真通にでもなったかのような気がしてきたのである(笑)。年寄りの大いなる勘違いと言うべきだが。

 去年の8月に開催された年金者組合の文化展に、初めて写真を出品させてもらったが、それに味を占めて、12月には青葉区民芸術祭に、この1月には都筑区民文化祭にも出品させてもらった。病膏肓に入るとまでは言わないが、徐々にそれに近付いているのかもしれない(笑)。青葉区民芸術祭も都筑区民文化祭も、出品することができるのは区内在住・在勤・在学の方、または主な活動拠点が区内にある文化団体に所属している方となっている。私は都筑区に住んでいるので、都筑区民文化祭に出品するのに何の問題もないが、青葉区の方はそうはいかない。

 しばらく前に、青葉区在住の方が代表を務める写真サークルに参加したので、その結果青葉区民芸術祭にも出品が可能となった。先に開催されたこちらの方からその顛末を紹介してみよう。この芸術祭は、あざみ野駅の側にあるあざみ野アートフォーラムで12月初旬に開催された。なかなか立派な会場である。作品を搬入したり搬出する作業は当然ながら自分でやるのだが、それ以外は展示も作品のタイトル名と出品者名の入ったキャプションの貼り付けも、区の担当の方がすべてやってくれた。あとは、割り当てられた日時に2時間半ほど受け付けを行うことになる。当日見学に来られた方にパンフレットとアンケート用紙を渡し、記入済みのアンケートを回収するだけなので、何か特別なことがあるわけではない。

 受付で一緒になったのは、比較的若い男性の方だった。途中で、展示された額の中の写真がずれていることを発見したのだが、その補修などは彼が素早くやってくれた。結構長い時間一緒にいたので、写真のことに関してあれこれと彼の話を聞いた。素人の私などは教えてもらうことが多いので、話を聞いているだけでも楽しかった。かなり本格的な写真愛好家のようで、出展した作品を撮るために同じ場所に3度も足を運んだのだという。潮が引いた海を入れて夕景を撮りたかったようで、そのチャンスを待っていたからだとのこと。泊まりがけであちこちに撮影旅行に出掛けているようで、もうしばらくしたら海外に出掛けるとも語っていた。彼の作品は静かで幻想的で美しい写真だった。

 受付の合間に、展示された写真をゆっくりと見て廻った。これまでにも何度か写真展を覗いたことはあるが、これほど時間を掛けて丁寧に見たことは初めてである。自分も出品しているとなると、他の人の作品もよく見て比較参照したくなるのかもしれない。会場を回って眺めていたら、地元の社会運動で顔見知りのMさんにばったり出会った。彼女もカメラ愛好家である。美しい花の写真を出品していた。数えたわけではないが、花の写真はそれなりの数になる。美しい花を見ると、心が動かされて写真に撮りたくなるからであろう。

 Mさんは地元の写真サークルに入っているようで、私もその場で誘われた。月に一度サークルの集まりがあり、プロの写真家である先生が、生徒の持ち寄った作品について講評してくれるのだという。今のところ新たな写真サークルに入るつもりはないのたが、先生の講評だけは聞いてみたいと思った。厳しい批評を聞けば励みになるような気もしたからである。しかしながら、こちらはカメラ任せのオートで撮影しているだけで、せいぜいが遠近を調整してピントを合わせるだけの人間である。しかもそれ以上のことにあまり興味や関心がないというのだから、プロの批評などもったいないの一言であろう。「猫に小判」や「豚に真珠」の類いである(笑)。

 年が明けて、つい先日から今度は都筑区民文化祭が始まった。こちらは区役所のホールでの開催である。普段は何もない通路なので、倉庫からパネルや机や椅子を運んで並べ、フックを掛けて渡されたキャプションを貼った。文化祭のポスターも公募していたし、事前の説明会も開かれたから、こちらの方が全員参加の手作りの文化祭という感じが強かった。区役所内には図書館や公会堂も併設されているので、人通りは多い。多くの人が用事のついでに眺めてくれた。あざみ野アートフォーラムは立派な展示場だが、わざわざ芸術祭を見に来る人はそれほどはいない。都筑区の文化祭には、普段着で顔を出せるホールの良さがある。

 私が出品した写真展は、生け花展と合同で開催されたので、受付の当番の際に、写真を丁寧に見て廻っただけではなく生け花もじっくり見た。こちらも様々に意匠を凝らしているので、見ていて楽しい。大ぶりで色鮮やかな花に目が行った。眺めているうちに、出品者の名前が珍しいことに気が付いた。玉雪や玉霞や玉菜に加えて白星、緑蓮、華舟、華桜などもあった。生け花の担当の方に尋ねたところ、これらは「雅号」だとのこと。文人や画家や書家などが本名以外に付ける名前のことを言うようだが、そんなものがあることを今回初めて知った。なかなか優雅である。優雅が過ぎてちょっとこそばゆい感じがしないでもなかったが…(笑)。

 今回二つの会場に写真を出品してみて、あらためて自分は何を表現したいのかを考えることになった。結局のところ、私は自分の心の中にある心象風景を写真に仮託したいと思っているような人間であり、その意味では老境を表現したいのである。しかしその老境とやらは、静かで、落ち着いて、平明なだけではなく、勁(つよ)さや鋭さや激しさの余燼がくすぶっているのである。そんなわけなので、ただただ美しいだけの被写体になかなかカメラを向ける気になれない。私のこだわりであり性癖である。こんなことを書き連ねているうちに、昔感銘を受けた中野重治の詩を思い出した。懐かしくなって、手元にあった『中野重治詩集』(岩波文庫、1978年)を開いてみた。我ながら意外だったが、昔の感銘はそれほど薄れていなかった。私が相変わらず旧臭い人間のままだだったからであろう。

  歌                                                                                                        おまえは歌うな                                                                            おまえは赤ままの花やとんぼの羽根(はね)を歌うな                                                            風のささやきや女の髪の毛の匂いを歌うな                                                                すべてのひよわなもの                                                                           すべてのうそうそとしたもの                                                                       すべてのものうげなものを撥(はじ)き去れ                                                                    すべての風情(ふぜい)を擯斥(ひんせき)せよ                                                                                     もつぱら正直のところを                                                                                                 腹の足(た)しになるところを                                                                                        胸さきを突きあげてくるぎりぎりのところを歌え                                                                                たたかれることによって弾(は)ねかえる歌を                                                                               恥辱(ちじょく)の底から勇気を汲みくる歌を                                                                                       それらの歌々を                                                                                               咽喉(のど)をふくらまして厳しい韻律(いんりつ)に歌いあげよ                                                                         それらの歌々を                                                                                                  行く行く人びとの胸郭(きょうかく)にたたきこめ

 

PHOTO ALBUM「裸木」(2023/01/27)

青葉区民芸術祭にて(少年時代)

 

都筑区民文化祭にて(石の質感)

新春の午後(渋谷にて)