団地の新聞『ポポラーレ』のこと(下)
前回『ポポラーレ』の成り立ちなどについてふれた。振り返ってみれば、まったく何もない状態からよくもまあここまで続いたものである。「自分を褒めてやりたい」などと言った物言いが世間にはあるようだが、まさにそんな気分である(笑)。世話人の宮内さんも編集長の保田さんも、きっと同じような気分なのではあるまいか。だが、始めるのも難しいが、続けるのはもっと難しい。問題なのはこれからである。このあたりで一度立ち止まり、これからの『ポポラーレ』のあり方をあらためて考えてみるのも、意味のある試みかもしれないということになり、去る3月10日に「ポポラーレ交流会」と称して投稿者の集まりをもった。もともとの発案者は、常連の投稿者であるKさんである。
顔を出された方は全員で13名だったから、予想外の盛況であった。急な用事と重なって出席できなくなった方も何人かおられたから、もっと集まる可能性もあったようだ。時折世話人と編集長を囲んで常連の執筆者だけの集まりを持つことがあるが、こうした集まりは、どうしたわけか直ぐに飲み会へと転じてしまうので(笑)、有意義な意見交換の場とはなかなかなりにくい。飲み会は、それはそれで愉しいのだが、もう少し広い範囲の方々に集まってもらい、自由に意見を交換して『ポポラーレ』の仕切り直しをしてみたかった。そこで、前半は交流会らしくするためにコーヒーを提供することにし、アルコールは話が一通り済んだ後の後半に回すことにした。自家製の料理や一升瓶やワインを抱えてこられた方々には、少しばかり申し訳なかったのではあるが…(笑)。
世話人と編集長の挨拶の後、参加者全員から一言話をしてもらうことにした。『ポポラーレ』のことをどんなふうに思っているのか、投稿するきっかけは何だったのか、投稿してみての反応はどうだったのか、今後『ポポラーレ』はどうあったらいいと思っておられるのか、そんなことを自由に語ってもらったのである。一人一人が語り出すと、実にいろいろな意見が飛び出すものである。直ぐに結論を求めようとはしないフリートーキングの良さである。なかなかのアイディアマンとお見受けしたTさんの参加もあって、思いも掛けぬ話題もあれこれと提供された。
私などは、毎回原稿不足に悩まされているので、『ポポラーレ』のこれからに余り明るい見通しを持てないでいた。だから、何か新機軸を考えなければならないなどと勝手に思い込んでいたのだが、交流会の参加者からは、「なかなかよく出来た新聞だとの評判を聞いた」、「興味を持って読んでくれている方がいる」、「啓蒙的でないのがいい」、「だんだん質が上がっているように思う」、「現状を維持して続けていくことが大事だ」などといった前向きの好意的な意見や感想が出された。私にとっては思いも掛けぬ嬉しい反響である。他人様の意見や感想はよく聞いてみるものである。
編集長の保田さんがいつもいつも悩んでいるのは、投稿が少ないことである。どんな刊行物にも同じような悩みはあるはずだから、とりたてて『ポポラーレ』だけの問題だとは思っていないが、もう少し投稿が増えないものかと私も常日頃感じている。常連の執筆者や写真の提供者がいるのは編集に携わる身としては大変有り難いのであるが、投稿してくれる人の裾野をもっと広げたいのである。そうなれば安心できるのであるが、それがなかなかうまくいかない。メゾン桜が丘団地に住む人々の、書くことに対するハードルがやはり高いのかもしれない。どうすればいいのか。
家人に言わせると、『ポポラーレ』の末尾にある原稿募集中の案内を見たり、メールで「是非何か書いていただけませんか」と連絡を受けたり、通りすがりに顔を合わせた際に、「何でもいいですから何か書いてもらえませんか」と言われても、それで原稿を書こうとする人はまずいないとのこと。言われてみれば、確かにそうかもしれない。やはり日頃の人間的な信頼関係をベースにしたうえで、書いてもらいたい内容をできるだけ具体的に示されなければ、人は何かを書く気にはなれないのであろう。書くこと自体が面倒なだけではなく、何を書けばいいのかを考えなければならないとあっては、投稿に二の足を踏むのは当然なのかもしれない。
「書く(あるいは書いてもらう)材料がなかなか見当たらない」といった発言もあった。どんなものやどんなことをテーマにしてもらえればいいのか。自分の現在の仕事や過去に携わってきた仕事のこと、俳句や短歌や川柳などの趣味のこと、囲碁や将棋や麻雀のような勝負事、絵画や写真や楽器のようなや長年取り組んでいる特技のこと、こだわっているクルマやバイクのこと、出掛けた国の内外の旅行のこと、最近読んだ興味深い本や映画などのこと、街中で見かけた面白い出来事、近隣のお店情報やテレビ情報のこと、お気に入りの俳優や芸能人やスポーツ選手のこと、団地の生活で常日頃感じておられること、団地の内外で催される行事やその案内のこと、昔の団地の様子のこと、得意料理やお薦め料理のこと、家事や育児、介護などの日常生活のこと、好きな食べ物やお酒のこと、昔懐かしい田舎の話のこと、祖父母や父母、子供、孫のこと、病気や怪我や療養生活のこと、とんでもない失敗談や人に喜ばれた美談や自慢できる話のこと、そして世の中のニュースのこと、等々。
こんなふうに勝手に書き出していたら、際限がなくなってしまった。要するにどんなことでもいいのである、普段着でお喋りするように書いてもらいたいものだ。インタビューも引き受けるので、必要があればその旨お伝えいただきたい。こちらから出向くつもりである。パソコンやスマホからの投稿だけではなく、メモ用紙に書いていただいてもかまわない。『ポポラーレ』は団地の住民のすべての方に門戸を開いているので、完全な揺るぎのない全方位外交である。私たちの日常生活は、もしかしたら『ポポラーレ』の記事になることで埋め尽くされているのではあるまいか(笑)。そんな気がしてきた。
「専門的すぎる話はまずいですか」との質問もあったが、すぐに「知らない世界のことがわかるので、いいと思いますよ」との優しい返答があった。最後に、『ポポラーレ』の刊行のたびに、今回のような交流会を持ってはどうでしょうか」といった提案もあった。非常に面白い提案である。この日の交流会に集まった人々が、周りに投稿者の輪を広げてまた集うのである。そんな試みが、「現代の長屋」(Uさんの口癖である)とも言うべき団地の人間関係をより一層深めて豊かなものにしていくに違いあるまい。こんなふうに書いてきてはたと気が付いたことがある。そもそもは『ポポラーレ』が団地の親睦を深める目的で作られたものなのだが、実は『ポポラーレ』を作成する過程自体もまた団地の住民の親睦を深めていくという、この思わぬ展開に…。交流会の楽しさが、そんなことを気付かせてくれたのであろう。病を押して顔を出してくれたNさんを始め、参加者の皆さんにあらためてお礼を述べたい。
PHOTO ALBUM「裸木」(2024/03/29)
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